星の王子さまとキツネの話

「下心があるのが恋、真心があるのが愛」

「恋は求めるもの、愛は捧げるもの」

そんなことをいちいち考えて人を愛したりなんかふつうしない。「恋に落ちた」と思ったら、世界中のどんな口説き文句も、ラブソングも白々しい。この気持ちは自分だけのもの。抱きしめて、誰にもまねされず、誰かから何か言われることもなく、一人で可愛がりたい。

 

恋に落ちたくらいなら、1人で狂っている方が楽しい。でも、愛を育てるには、わたし1人がせっせと世話をしていてもどうしようもない。わたしがいくら愛そうともだめで、やっぱり愛は二者間での出来事なのだ。

 

星々を旅したちいさな王子さまとキツネは、ある星で出会って、二人だけが見る景色を少しずつ増やしていくことで互いを信頼し合った。愛って、そういうことなんだとわたしは思う。

このありふれた、誰にとってもどうでもいい世界で、「だけど、これだけは」という共通の認識を増やしていくこと、今まで見逃していた日々のいろんなところにきらめきを見つけることであり、思い出の色を付けていくこと。ひいてはそれは、放っておいたら風船のように飛んで行ってしまう「生きよう」という意志を繋ぎとめておくことにもつながる。愛は(男女間の話だけでなく、師弟愛や家族愛も含む)そんな形をしているのではなかろうか。

そう思うと、やっぱりわたしはここで間主観という言葉について考え込んでしまうのだ。

「間主観」とは、2人以上の生き物によって合意が形成されている状態のことである。つまりそれは主観と客観の間にある状況のことを指す。自分1人の考えではないけれど、誰もが同意する客観的な考えではない。経験や記憶を共にした数人だけが共有する主観のことである(とわたしは理解している)。

デカルトが残した言葉「われ思うゆえにわれあり」的な主観主義は、もう相当キツい。だって単純に「われ思う」だけでは「ゆえに我あり」とはいかない。我ありの状態になるには、他者との比較、状況やらなんやらいろんな要素が絡み合うから。

かといって、客観的に見て正しいことなど、この世界ではもはやあり得ない。なにが正しくて何が間違っているのかなんてことは、立場や境遇によって違うわけで、それはこれまで数々のドラマや小説が証明してきた通りだ。

 

というわけだから、誰かを愛することはものすごく間主観的な営みだなと思う。個人間のレベルでこの世界の常識を編みなおしていくこと。世間が「ダメ」ということであろうと、私とあなたならそんなものは越えてしまうとか、世の中の誰もわかんないだろうけど、私たちはこの話題がとても好きで楽しめるんだ、とか。まあ平たく言えば「2人だけの世界を作る」という話。(….なんだけど、お互いに夢中になって結果的に2人の世界が出来上がるってわけじゃないんだということは注釈しておきたい。)

 

でもこれ、実践するには結構面倒だったり、困ったりする。というのも、自分とは相入れない考えや趣味、興味がなかった出来事について、一旦は自分の中に取り込んで考えなくてはならないから。経験を共有するためにね。

 

そのためには、自分がどれだけ揺らいでいられるかだと思う。

別にこれはどこにも書いてなくてわたしが思うことだけど、親身になるとか同情するとか共感するとかとは、単に気持ちの問題にとどまっていて、感想として「可哀想」とか「大変だね」とかを言うだけだ。

一方で揺らぎやすさは、「じゃあわたしも」と、当事者と同じ状況に身をおこうとしたり、手を差し伸べようとしたりする。そうすれば相手と同じ経験を共有できるから、はい間主観の出来上がりというわけだ(そんな簡単じゃないけど)。

つまり自分がどこまでも透明で、弱くて、影響されやす状況に在ろうとする、少なくともわたしはそう在ろうとしている。

 

でもそれって自我がなくない?相手のことばっかりで辛くない?という次の疑問が生まれる。

が、全然辛くないし情けなくもない。相手に追随するだけではなくてきちんと自分の好みも通すから。身体的な不快感を感じたとき、ダサいと思ったとき、危ないと判断したときなどなど。そのエラーが出るまでは、わたしはどこまでも透明で、弱くて、影響されやすく在りたいのだ。

 

やっぱり、自分のこういう性格を分析してみると、どんどんいろんな人に出逢わなくてはわたしはずっと単に透明で弱いままなんだな、と思う。

最近は新しい人に出会わなくてどこまでいっても行き詰まりを感じていて、自分がどんどん小さくなっていく気がして焦っていた。

 

急ぐことはないだろうけど、懐かしい人や、初めて会う人に出会うことを諦めないでいたいなと思う。それが愛にまで育たなくてももちろんいい、わたしはこの世界に誰かとの経験や秘密を、できるだけたくさん咲かせたいのだ。

 

◾️◾️

大きな窓から流れ込む風が、

季節が変わったことを教えてくれた 

肌に似合わない街の匂いに取り残される

その心細さを愛おしく思う

 

恐る恐る差し出したら

あなたは喜んで受け取るのだろうか

困ってほしい

わたしがあなたに狂ったのと同じくらい

  

朝、それは昨日の続き

洗いたてのリネンの匂い

カーテンがない部屋の朝日

真っ白い渦の中で泣いた 

忘れないでいて