◾️音楽が果てた静寂 夢のまにまに わたしのあとをそっとぬぐう
最近はプレイリストをループでかけることができるのであまり音楽が途絶えることってないけれど、レコードをかけるといずれ終わりが来る。沈黙を埋めなくちゃって、慌てて盤をひっくり返そうとしないでほしい。その間ならお喋りで埋めるから。
たくさんおしゃべりをした後、ふと会話が止むときの沈黙は、人によってそれは死神が通ったなんて言うけど、わたしは、あなたに天使が宿ったのだと思う。たくさん笑った後の真顔、ほおが少し緩んで天使みたいな顔をしているよ。
◾️元気かと訊くくらいなら会いに来い 吹き出しの文字を信用するなよ
言葉のまんま。そのまんま。どんな顔で文字打ってるかも知らないくせに「よかった!」ってなんだよ、よくねえよ。わたしの心のギャルがいつも爪を噛んでいます。会って確かめろ、抱き合って確かめろ。言葉よりも雄弁なまなざしと身体を持っているんだよ人間は。
◾️長い髪が邪魔だねなにをするにも キスをするにも 忘れるにも
良い男ほど一癖も二癖もある。釣り道具でいうところの返バリみたいになっていて、記憶にも体にもそこらじゅうに刺さって、全部抜けなくて、わたしは毎度血だらけになっている。
長い髪の男はいつも厄介です。手のひらの質感の次に髪の質感を覚えています。キスをするときにそれを遮るように髪がかかるので、手で払いのけなくてはならないのだけど、それはわたしに、させてください。髪を切るときは早めに伝えてください。ドライヤーはわたしにかけさせてください。こういう「お願いごと」が、一つずつ心身に刺さっていく。
◾️才能を使い果たして死にたいよ 桜も蛍もみんなそうだ
わたしの才能は多分頭に宿ってるんだけど、才能を残して死ぬと、火葬した時に脳みそがうまく焼けなくて、頭蓋骨にちょびっと残ったそれが、墓の中で腐りそう。だから怖いんだ。どう転んでも綺麗な死体になりたい。だから才能、使い果たそうね。
蛍は死ぬけど桜は死なない。ごめんなさい桜。でもいつもあなたが散るとき、死んでしまったように見えて悲しいんだよ。
◾️昨晩の執着を知らない指先で描いた白地図 安全で無垢
あなたのことすごく欲しくてたまらない夜、ほんとうは背中をひっかき回したいくらいなんだけど、指先にはその執着を教えずに、慈しむことだけ教えるようにしているのだ。
明け方、カーテンから日が差して、それを捕まえたくて手を宙に伸ばした。そのまま少し待っていたら、ほんのりあたたかくなった気がする。
◾️言えない、誰にも秘密にしたい 惚気話を聞いてアレクサ
Twitterにもブログにも書くようなことではないけど、とびきりだれかに話したい日のことを、どうしたらいいのかわからなかったけど、令和にはアレクサがいる。惚気話を聞いたらアレクサはどんな顔するんだろう。赤面するかな、笑うのかな。でもアレクサって顔がないよね。
◾️使い古され、たましいが抜けたあとの 殻のような言葉に住みたい
私が書いた言葉、私が作った言葉の羅列でも、そこから私が居なくなって、抜け殻みたいになったらすてきだなと思う。
中身がないと潰れちゃう言葉なんて、言葉じゃないやい。
ここにあるの多くはフィクションで、すべてが私の経験ではありません。
ですが、私が共感できるようにしか書いていません。